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2012/11/01

ラブ・ケミストリーを読んで


ラブ・ケミストリー 読みました!
ちょっと出遅れた感がありますが、僕も一応有機化学を専攻しているので気になって読んでみました。
※ネタバレ注意

主人公の藤村クン。合成屋さんなら誰しもが憧れるような能力を持ってます。なんと、どんな複雑な分子でも瞬時に合成経路がひらめく、というようなものです。
僕は、読む前にこの本のあらすじなんかを見た時「合成スキームがひらめいて、それが実際行くなら世話無いな」なんて思ってました。
僕は、全合成の研究についてどういう経路といいますか、どういった進め方をするのかということをあまりよく知らないのですが、僕自身研究室に配属され、実験をやるようになって身にしみたことがあります。

机上の有機化学と実験化学は全然違う

ということです。
紙の上ならめちゃくちゃ便利で簡単な反応なのに実験すると文献値よりはるかに低い収率でモノが得られたりなんてザラなんですね。実験者の腕の問題もありますが、紙の上の反応より実際の系ははるかに複雑で、副生成物がわけづらかったり、なんやかんやあるんですね。
Wittig反応とか紙面じゃめちゃくちゃ便利な反応なのにめんどくさいのなんの。

もちろん藤村クンも同じです。合成スキームがひらめいたあとは、原料合成、条件検討なんかちゃんとしてます。さすがに「能力」とするだけあって、カンペキなスキームを持ってくるみたいです(^_^;)

僕も来年から全合成に従事する予定ですが、きっとスキームを考えるだけでも骨の折れる作業なんでしょうね。今のうちに知識を貯めておかねばなりませんね。

ひょんなことから(←あらすじでしか聞いたことない)藤村クンが能力を失ってしまうんですが、そこから実験は毎日失敗。とにかく失敗。
なんだよ、能力が使えなきゃただのクズかよ。
それもそのはず。ターゲットは化学界のフェルマーの最終定理とまで呼ばれたプランクスタリン(作者の創作分子)。もはや普通の院生となった彼には荷が重すぎたのでしょう。
きっとこういう失敗は毎日毎日多くの学生(にとどまらず研究者)たちがしてるんでしょうね。大変な世界だ。病んで出てこなくなる学生がいても納得。


さて、文章についてですが、専門用語が山ほどでてきます。我々有機化学に従事する者なら馴染みが深い単語ばかりですが、そうでない人が読んだらわからない用語がたくさんあると思います。


ただ、専門用語がたくさん出て来ますが、知らなくても十分読めるとおもいます。作中には少ないながらそれらを知らない人たちが出てくるので解説されてるものもありますし、
それ以前に物語の進行に関係ないですから。
僕が好きないわゆる理系作家と呼ばれる人の一人に森博嗣という方がいますが、彼の作品の中には、建築用語、コンピュータ関連の用語、物理の用語なんてのが頻繁に飛び交っていて大変です。いちいち気にかけていては内容が入ってきませんよ。
そんなもの気にしなくても読めるっていうのもまた作者の力なのかも知れませんけどね。
何 が言いたいかって言うと、有機化学ラブコメみたいなレッテルが貼られているけど、有機化学知らない人でも全然楽しんで読めますよってことです。有機化学の 研究室に属している(た)方なんかは馴染みに深い情景が書かれているのでそういった意味でも面白く読めるかと思います。
文体も読みやすく、早い人なら2時間くらいで読んでしまうでしょう。僕は3~4時間ほどで読了したと思います。

次に内容の話ですが、ちょっと核心に触れそうなことまで書くので気をつけてくださいね。
えー と、ただのラブコメじゃなくて、ミステリィ的な要素があって、うんと、えーっと、まじ?そいつ?ってなりますwwwwなんかうまい具合にミスリーディング された感あって、生意気な作者だなって生意気にも思ってしまいました。いやあ、よく出来てるとおもいます。よく出来てるし、俗っぽさもすごくよく出てる。
読み進めていって最後はたたみかけるように急展開。こっちがなんか忙しい時の急かされる感覚にさいなまれるくらない急展開で慌ただしく進行します。
そんでまあまあ衝撃のラスト。僕、さいご鼻の奥が痛くなるような覚悟もしたんですけどねぇ…。うまくまとめてきました。まぁ、ちょっとそれは反則くさくない?っていう結末ではあったんですが楽しく読めたので細かいことは気にしない。


とまあ、読んだ感想はこのくらいです。
作者の今出てる作品も読もう!って思わせるくらいの出来です。気になったらぜひ読んでみてくらはい。


主人公が全合成を目指した分子:プランクスタリン


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